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長屋ならではの一工夫!
構造からのフルリフォーム
築40年ほどの長屋をお父様から受け継いだM様。お父様がお住まいの間、雨漏りやシロアリ被害があったため、この機会に構造から見直して今後も安心して住める家にしたいとリフォームのご依頼をいただきました。
傷んだ柱や梁はしっかり耐震補強を施し、安全性を向上させました。室内はフローリングや建具・家具などに本物の木を使用しています。
間取りや収納計画にもこだわり、小さくても豊かに暮らせる工夫をたくさん盛り込んだ上質な空間をご紹介します。
M様邸 ハウスデータ
築年数 | 約40年 |
---|---|
構造 | 木造2階建て 長屋 |
建坪 | 8坪 |
施工面積 | 54.5㎡ |
内容 | フルスケルトンリフォーム |
完成の様子を動画にしました!
M様のお宅は既に雨漏りやシロアリ被害が確認されていたため、リフォームの他に建替えも視野に入れて検討されていました。
しかし、M様の土地は、前面道路との関係で建物のセットバックが必要な場所。一度壊して新築する場合は建物を建てられる面積が小さくなってしまいます。
隣の家との切り離し工事が必要だったり、3階建て以上になることで費用が高額になるため、現実的ではありません。
様々な条件や見積もりを検討した結果、現在の建物を活かしてリフォームを行うことになりました。
新築の場合
建坪が狭くなり、建築費が高額に
リフォームの場合
今の大きさのまま改修可能
▼
リフォームプランを採用
1F
▼
浴室を移動して
ゆとりのある
キッチンスペースに
2F
▼
中央に書斎を置いて
空間をゆるやかに
区切る間取りに
M様のお宅の耐震診断を行ったところ、1,2階ともに倒壊の危険性が高い評点になりました。
基礎や構造材を見直し、全体のバランスを見ながら必要な部分に柱や耐力壁を追加することで耐震性能を上げていきます。
改修後は重心と剛心の距離が近いバランスの取れた建物になり、倒壊の危険性も改善されます。
お父様がお住まいのころから雨漏りやシロアリ被害があったというM様邸。その都度応急処置をされてきましたが、内部がどうなっているか分からなかったため、内装をすべて解体したところで調査を行いました。
雨漏りはお隣の屋根から
雨漏りがあったのは、長屋でつながっている隣家との間の壁でした。屋根に上って調べたところ、お隣の屋根の板金が一部取れてしまっていたため、そこから雨水が入っていたようです。
お隣の家の方に現状をご説明し、屋根の補修を行うことにしました。
長屋は隣家との関係が重要
長屋の場合は隣同士で与える影響が大きく、隣家の方のご協力が必要な場面がたびたび出てきます。
今回はお隣の方にもすぐ連絡が取れましたが、隣が空き家だったりするとオーナーさんの所在が分からずに対策が取れないという場合もあり、長屋の工事が難しい理由の一つにもなっています。
外来種のシロアリ被害
以前シロアリが確認された場所は2階の押し入れ部分でした。壁を壊してみると、その部分を中心にかなり被害が広がっていた様子。通常シロアリ被害というと1階から被害が広がり、徐々に上まで...というパターンが多いのですが、M様のお宅は2階の損傷が最も大きく、近年外来種として問題になっているアメリカカンザイシロアリの食害が広がっていました。
アメリカカンザイシロアリとは?
土壌から上がってきて、水分で腐食した木材を食べるヤマトシロアリやイエシロアリとは違い、乾いた木を好んで食べ、木材の中に巣を作ります。輸入されてきた家具や木材の中に潜んでいたものが飛来して家の柱や梁などに巣を作り...という形で最近関東でも被害が多くなってきている外来種のシロアリです。
木材の中から小さな穴を開けて粒状の糞を外に出すため、それが発見のきっかけになることが多いそうです。
1.柱内部の調査
打診やレーダーで検知できるシロアリ検査機を使い、目に見えない内部の被害を確認します。
2.駆除
木材の中にシロアリの巣があるため、木に空いた穴から殺虫剤を注入し、巣を薬剤で満たすようにして駆除します。
3.予防
シロアリの防除剤を散布して被害を予防します。揮発せず人体には影響のない安全な薬剤を使用します。
耐震補強
元々は店舗併用住宅だったため1階の半分は土間のコンクリートが打ってありましたが、土の地面だったキッチンの床下もコンクリートのベタ基礎にして、基礎の強度を上げます。
また、新しい間取りに合わせて土台を追加し、柱の交換・追加を行いました。
元々は店舗併用住宅だったため1階の半分は土間のコンクリートが打ってありましたが、土の地面だったキッチンの床下もコンクリートのベタ基礎にして、基礎の強度を上げます。
また、新しい間取りに合わせて土台を追加し、柱の交換・追加を行いました。
断熱材
床や天井・壁に断熱材を入れて、冷暖房効率の良い快適なお部屋になります。隣家との間の壁と、吹き抜けになる部分の天井には、より密度の高い断熱材を使用しました。
防音性の高い断熱材
お隣からの生活音が気になるとのことでしたので、隣家側の壁には充填式の断熱材「セルロースファイバー」を採用しました。壁の中に隙間なく吹き込むため密度が高く、熱が逃げやすい吹き抜けの天井にも使用しています。自然素材を原料としているエコな断熱材です。
屋根の瓦はすべて下ろして、軽量のアスファルトシングルに葺き替えます。屋根が軽くなると建物への負担が減り、地震の際の揺れも軽減されるようになります。
玄関扉や交換するサッシのまわりは外壁ごと新しくします。新しい外壁の下地には地震に強いラスカットボードを使用しました。古い外壁の塗料を削り、上から下地のモルタルを塗りなおしてから塗料で仕上げました。
内装は床に無垢フローリング、居室の壁には和紙のクロスを張りました。空間を有効に使える造り付けの収納を取り付け、書斎のカウンターやダイニングテーブルも造作しました。
玄関
玄関扉のスリットから光が入って明るいエントランススペースです。
上がりかまちの段差を解消するために奥行きの深い踏み台を設置し、出入りが楽になりました。
リビング
玄関を入ってすぐの場所がLDKになります。
床はスペリオルアッシュの無垢フローリングを張り、壁には和紙のクロスを使用して、自然素材のぬくもりを感じられるお部屋です。
テレビ台とダイニングテーブルはちょうどいい大きさのものを杉材で製作しました。
リビングの窓は外からの視線が気にならないよう、高い位置に設けています。玄関側の扉も光を通す素材にして、プライバシーを守りながらも採光を確保した明るい空間となります。
奥のキッチン横にあった浴室を、玄関側に移動させました。以前は無かった脱衣スペースを設けた分リビングは狭くなってしまいますが、キッチンスペースには余裕ができました。
脱衣スペースは階段下を利用して、天井が低くなった部分に洗濯機置き場を設置しました。
脱衣室の幅は最小限にしたため、タオルなどの収納は壁の厚みを利用したニッチスペースを利用して棚を造作しました。
キッチン
浴室を移動してスペースに余裕ができたため、収納を充実させることができました。
作業スペースが広くなり、動線もすっきりとした使いやすいキッチンです。
背の高い収納棚は圧迫感を感じるため、引き出しタイプの棚は高さを抑えて、その上に壁付けの棚板を取り付けています。
キッチンの奥は食品や日用品のストックを置いておけるパントリースペース。目隠しの壁があるので箱で買った飲み物などもそのまま収納しておけます。
階段ホール
ラバーウッドで製作した階段は勾配を緩やかにして手すりを取り付け、昇り降りしやすくなりました。
2階の階段ホールは格子がアクセントに。窓からの光が通り抜けるので明るく、階段側を腰壁にしたため狭さを感じません。
寝室
2階にはあえて扉を付けず、和室と寝室の間に書斎を作って空間を緩やかに区切る間取りにしました。
杉の無垢フローリングを張った寝室側にはトイレと洗面台を設置し、朝の身支度がしやすくなっています。
寝室と和室の間に設けた書斎は、視線が抜ける格子の壁や吹き抜けになった天井で狭さを感じずにお仕事がはかどるスペースです。
階段側だけでなく書斎側も通路として使えるので、お部屋の中をぐるっと一周できるようになっています。光や風が通り抜けるため、それぞれを個室として仕切るよりも明るく開放感のある空間になります。
和室
和室は縁のない和紙畳を敷いてモダンな印象に。第二のリビングとして寛げる場所にしました。
クローゼットタイプの収納を設けて、お洋服はこちらに仕舞うようにします。
梅田 裕子
インテリアコーディネーター
M様は新築や他社工務店さんでも検討されるとのことで、最初にお問合せを頂いてから一度期間があきましたが、再度弊社にお声がけくださいました。熟考の上で弊社を選んでくださり、とても嬉しかったです。
M様のお宅では、床にアッシュと杉、建具にツガ、窓枠や建具枠には杉の巾ハギ材を使用しました。壁紙は和紙を施工しています。
内部は自然素材をふんだんに使って心地よい上質な空間になったことに加えて、構造も塩谷が見直し、基礎の追加、柱・梁の補強を行っております。断熱材にはパーフェクトバリアに合わせて、吹き抜け部分と隣家側の面には断熱効果・防音効果の高いセルロースファイバーを使用しました。
安全性も快適性も向上して、とても暮らしやすい家になりました。
お打合せから工事完了まで、長期に渡り大変お世話になりました。
白蟻のことや、途中で計画変更等もありましたが、その都度柔軟にご対応頂きましたこと御礼申し上げます。至らない部分もあったかと思いますが、信頼して任せて下さいましたこと、とてもありがたく感じておりました。
プラン作成時にはM様も一緒になって考えてくださり、そういう案があるんだとはっと気づかされることもありました。
リフォームは考えることがたくさんあるため、悩まれることも多くあったと思います。疑問に思ったことはすぐにご相談してくださったので、スムーズに工事を進めることができました。
お父様の残された大切な建物のリフォームをお任せくださったこと、また、M様から頂いたご縁に感謝致します。
これからお暮しになられて、お気づきのことなどございましたら、いつでもご連絡ください。
この度はご依頼ありがとうございました。
一級建築士
耐震設計士
M様のお宅に初めてお伺いしたときに、いろいろと話をお伺いし、これまでご家族が大事に手を入れてこられた事がよくわかりました。
何度かリフォームされていたこともあり、水回りも大変きれいでした。大規模な工事をしなくてもこのまま一部手直しすれば済むのではないかと思った程です。
気になったことと言えば、隣家と一体となった構造体と屋根のメンテナンスがどの程度なされているのかということと、雨漏りの事象がみられたことでした。
しかし、耐震診断を行なってみると結果はあまり思わしくなく、解体してから判明した長年の雨漏りによる腐食やシロアリによる蟻害も多数見られました。
そして、リフォームを繰り返すことにより出てきた構造的な不具合も見つかりました。
スケルトンリフォームをすることで不具合がすべて解決できる訳ではありませんが、性能的には格段に向上したことと思います。
工事中は現場で計画の変更や仕様の変更など都度に対応していただきました。
ご家族で大事に守ってきたこの家で、これからも健やかにお過ごしください。
いろいろとお世話になりまして、ありがとうございました。
このたびのご縁に心より感謝いたします。
一級建築士
塩谷 敏雄
<建築士塩谷より>
雨漏りやシロアリは早期の対策が重要です
一級建築士
塩谷 敏雄
通常シロアリ被害というと、雨漏りや水漏れによって腐食した木材に発生することがほとんどです。「以前にシロアリが出たことがある」というお話をうかがったときには、雨漏りに起因するものと予測していました。
しかし、実際に中を見てみると、雨漏りで腐食した木材のシロアリ被害よりも、新たな外来種であるアメリカカンザイシロアリの被害が広範囲に広がっていました。外から見える蟻道を作らず、長年に渡って木材の中で巣を広げるため、気付かないうちに被害が大きくなってしまうことがあります。
シロアリの侵入を完全に防ぐのは難しいですが、シロアリ被害のサインや雨漏りなどを見つけた場合にはなるべく早く対策を行うことが重要です。