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ビルトインガレージのある3階建ての家を耐震補強
Y様邸 ハウスデータ
築年数 | 13年 |
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構造 | 木造3階建て住宅 |
内容 | 1階 耐震補強リフォーム・2階 断熱リフォーム |
地域 | 東京都新宿区 |
Y様邸は1階の大部分がビルトインガレージになっている3階建ての木造住宅。土地の限られている都心ではよく見かけるピロティ構造のお住まいです。
Y様はこの建物を13年前に建売で購入されましたが、上階で揺れを感じ、外壁にはクラック(ひび)が生じてきている状況でした。 また、2011年3月の東日本大震災を経験してから、お住まいの耐震性が心配になっていたそうです。
そんな中Y様は、ご自宅と同じような建物のリフォーム事例「1階が駐車場の3階建て木造住宅を耐震補強」をご覧になり、メールにてお問い合わせくださいました。
Before
少しでも余裕を持たせるためか、ビルトインガレージの壁が、上階の壁より少し外側に立てられています。
上階の重さを支える重要な壁ですが、この形では上からかかる力が分散されて、弱い部分に力が集中するため、大きな地震の時などに建物が倒壊する危険性があります。
設計図面では部屋が長方形ですが、実際の建物では、2階の一部がせり出した形になっています。 建築段階で変更を加えたのではないかと思われました。
きちんと構造計算を行い、安全な建物として設計されていても、図面と異なる形で建築されていたら意味がありません。 上階で揺れを感じる原因の一つではないかと推測されました。
ガレージ天井の点検口から確認したところ、梁が細い箇所があることがわかりました。
ガレージは空間となっていて壁が少ないため、上階を支えるためにはしっかりした梁が必要です。 重要な梁が細いものでは、上階を支えきれずに2階が崩れる恐れがあります。
図のようにビルトインガレージを補強することで、揺れを軽減し、地震に強い建物にします。 合わせて断熱施工も行い、安全で快適なお住まいへとリフォームします。
耐力壁を新設して、上階と壁の位置を合わせることで、しっかり上階の重さを支えられるようにします。
まず基礎を新設して新しい柱を立て、筋交いとホールダウン金物、構造用合板を使って耐力壁を造ります。
筋交いは耐震金物と併用することで力を発揮します。 筋交いを入れた壁は、横揺れには強くなりますが、縦揺れでズレてしまうことがあります。 これを防ぐため、耐震金物で固定するのです。
新しく設置した土台と柱をしっかり固定するために、ホールダウン金物を設置します。 ホールダウン金物は、土台と柱を固定するための耐震補強金物で、地震の揺れで柱が抜けることを防ぐ効果があります。
※詳しくは、耐震補強金物をご覧ください。
梁の細さが気になる箇所を集成材で補強して、上階を支えられる丈夫な梁にします。
また、天井に断熱材が入っていなかったことから、合わせて断熱施工を行うことをご提案しました。 断熱材を入れることで、2階の床が外気の影響を受けにくくなり、冬でも暖かく過ごせます。
柱と梁の接合部である仕口に、仕口ダンパーを取り付けます。
仕口ダンパーの内部にある粘弾性体が揺れを吸収することで、建物の耐震性を向上させます。 仕口ダンパーは地震の大きな揺れから、風による小さな揺れまで、安定した効果を発揮し、耐久性にも優れています。
※詳しくは、仕口ダンパーをご覧ください。
3階建ての建物では、上階になるほど大きな揺れを感じます。 揺れを軽減するには、建物の荷重がかかる1階を強くすることが大切です。
現地調査で確認したように、Y様邸は建築当初から計画図面と異なっていて、本来あるべき建物の形が崩れてしまっています。 そこで、なるべく建物が本来の力を取り戻せる形で補強計画を立てました。
今回のような耐震補強を行う場合、「このくらい地震に強くなりましたよ」と建物の強さを数値で表すことはできませんが、リフォーム前よりも強い建物になるよう、できる限りの工事を行います。
着工です。壁と天井の外装を撤去します。
新しい基礎を施工します。コンクリートに鉄筋を打ち込むように設置し、骨組みにします。
建築基準法で定められた太さの鉄筋を、定められた間隔で正しく配置しました。
鉄筋の周囲に型枠を組み、コンクリートを流し込みます。
短い金物が基礎と土台を接合するアンカーボルト、長い金物が土台と柱を接合するホールダウン金物です。
基礎の上に土台を設置しました。土台はシロアリ予防の防蟻剤によって、くすんだ色に見えます。
新しく耐力壁を立てる位置に、天井裏から給水管が通っていました。
邪魔にならないよう、給水管を少し手前にズラしました。
柱を立て、筋交いを入れて、新しい壁の骨組みを形成しました。
土台と柱をホールダウン金物で固定しました。ホールダウン金物は壁面の2箇所に設置しています。
耐震金物で接合部をしっかり固定することで、地震の際に柱や筋交いが抜けてしまうのを防ぎます。
柱と筋交いの下側も、アンカーボルトと耐震金物で固定しました。
新しい壁と既存の壁もしっかり接合します。柱の間に木材を挟み、コーチボルトで固定しました。
横から見ると、2本の柱が固定されているのがわかります。
柱や筋交いにも防蟻剤を塗布しました。黄色っぽいのが防蟻剤を塗布した箇所です。
細かった梁が、杉の集成材を使って補強され、丈夫な梁になりました。
構造用合板で壁を閉じました。構造用合板は面として建物を支えるため、より強固な体力壁となります。
天井に断熱材のパーフェクトバリアを施工しました。2階のリビングが、冬でも快適な空間になります。
天井の断熱材を覆うように、軒天材を施工しました。
新しい耐力壁に防湿シートを張り、雨風が吹き込んだ時のダメージを防ぎます。
その上からサイディングを施工しました。
吹き付け塗装で仕上げます。補強箇所が目立ちすぎないよう、既存の壁と似た雰囲気の塗装を選びました。
基礎の上の出っ張っている部分は防蟻笠木です。シロアリが基礎を伝って侵入するのを防ぎます。
ガレージ内部の壁に仕口ダンパーを取り付けました。外装材の上から、柱と梁の交点に設置されています。
鋳物タイプの仕口ダンパーです。内部にある粘弾性体が地震の揺れを分散させます。
左右対称の位置に、仕口ダンパーを4つ設置しました。
工事前は、ガレージの奥に吊り戸収納がありましたが、いったん撤去しました。
耐震補強工事後に、新しい吊り戸収納を造り付けました。便利にお使いいただけます。
見た目は大きく変わりませんが、耐震補強後は、新しい耐力壁が造られ、仕口ダンパーも設置されて、よりしっかりとした建物になったことがわかります。
耐震補強前
耐震補強後
施工責任者
一級建築士
塩谷 敏雄
ビルトインガレージの耐震補強が無事に完成しました。
向かって左側の壁が、上階の壁とつながった位置になり、補強前に比べて安定したことがわかります。 地震への強さを数値で表す「構造評点」は算出できませんでしたが、耐震補強後のお暮らしで、揺れの違いを体感していただけたことと思います。
普段お使いのガレージを工事するため、車を別の場所に移動したり、物をいったん撤去したりと、Y様にはお手間をおかけしましたが、いつも快くご協力くださいました。ありがとうございます。
また何かありましたら、いつでもお声かけください。今後ともよろしくお願い申し上げます。
施工責任者
一級建築士
塩谷 敏雄